できるだけ環境を整える

 同じような疾患にかかっても、ひとりひとり、事情もあれば環境も違います。私のことを書くと、私よりも不便を感じている人には、嫌な気持ちを与えてしまうかもしれませんが、病気を何とかするための努力の一つとして書いてみます。
 私は、12歳の時、交通事故で脊椎を少し痛めました。大人になり、今の平均よりもずっと若い年に結婚しました。一人娘を妊娠中に、髄膜炎になりました。その後、子供はできませんでした。五年前にその理由が明らかになりました。(病気のことでも「はしたない」って受け取られることもあるのですが、明らかにしたいので書きます) 子宮腺筋症とわかり、子宮と卵巣と卵管を摘出する手術を受けました。腺筋症になると不妊症の率が高くなります。結婚した当初から、徐々に病気が進行していたのならば、たぶん私は、ずっと不妊であったかもしれません。
 手術直後から、間質性膀胱炎の症状が顕著になりました。排泄はかなり困難でした。

 繊維筋痛症の複線、または、強直性脊椎炎の複線として、元の先生の著作に挙げられている病気です。著作には「子宮内膜症」とあり、「腺筋症」と同一視しているネットの情報もあれば、別物として扱うサイトもありました。交通事故、感染症、PTSD、婦人科手術、間質性膀胱炎は、強直性脊椎炎になったひとの病歴として挙げられています。とくにPTSDは、繊維筋痛症の原因の一つに挙げられます。

 でも、私は、交通事故の記憶で、パニックになったことがありません。そもそも、人間の感情は、だれでも上下するもので、病気といえるほど我を失うことは経験したことがありません。

 あまり、いろいろな医師が「精神病/身体表現性障害/更年期障害」と言い張るので、そうかもしれないと思っていました。おのれで自覚している精神的負担とは、「限界集落、古い家系の、長男の嫁」という、ジェンダーでした。ジェンダーというと、社会的性別とか、フェミニズムなどと呼ばれがちですが、私は、おもに海外の翻訳本から、「資本主義社会における家父長子制度からはみ出した人の問題」ととらえています。性別は関係なく、資産を受け継ぐ長子の苦しみ、なにも与えられない長子以外の人の苦しみ、と考えます。

 私のストレスは、子供のころは「嫁に出す子」で、実家は自分のいるべき場所でなく、嫁いでからは、十七代目の嫁という「立場」でした。
 入院した時、嫁ぎ先の、大ばあちゃんと、両隣のおばあちゃんと、ばあちゃんたちに似た、村社会…苦痛でたまらない田舎の常識で生きている人たちに囲まれて、二十四時間過ごしている、という状況にどんどん体が痛んでいきました。

 すぐつかわれる、現代の常識でしてはいけないことも悪気なく聞いたり、行動したりします。戦前、戦中、戦後でかなり差のある感覚を持っています。平成の常識で生きている私には、ものすごいストレスでした。ストレスで悪化するので、入院して動けなくなったと考えます。

 退院した時、身動きできない状態のまま、嫁ぎ先の人たち、実家の母を招いて、寝たきりの私の姿を見てもらい、治る確率は低いので、今までのように、自家用車でおばあちゃんを運んだり、介護したり、観光地に付き添って案内したり、家出してきた母に、三食の糖尿病食を作って運んで食べさせて片づけることも、全部できません、と宣言しました。

 「自立した女」が好きな夫にも、私はもう、今までのように「何でもできる女」のフリは続けられない。横たわっているのも難しいのだといいました。いままで、「できる女」を演じてきたけれども、本当は甘える人がほしかったのだ、ともいいました。

 昨年の春の時点で、それを伝えて、言葉ではわかっていても、本当に理解する人はいませんでした。娘も、いまだ私の具合の悪さを理解していません。ほどほどに甘えさせて、てぎないことはできないと言ってあります。

 正直、私が頼られて、なんでも言われるままに尽くしていて、私が動けなくなって、今まで私がしてきたことを各自でやる、というのは、周囲には納得できないことだったようです。それでも、つらいときは一々伝えて、「ヒロ(私の名前です)、電話ー」と電話機の近くで寝そべって、私がよたよたと電話機にしがみついたら、既に切れていた、などの他愛ないことは、改善されていきました。パックの飲み物だと、ストローをさしてもらうし、コンビニ弁当のふたも開けてもらっています。夫=ヘルパー。

 いま、私は、なーんにもしない悪い主婦をやっています。のーんびり、好きなことだけして、家事は一切しません。区とか組とか班などの、自治体の付き合いも参加しません。それで自治体からはじかれても、電気と水道と自家用車の運転さえできれば、不便もありません。体が重く苦しいだけです。今、手があまり動かないので、運転させてもらえませんが、田舎に住むうえで大切な交通手段なので、運転だけはできるようになりたいとおもいます。

 節電が叫ばれていますが、洋式の水洗トイレもエアコンも使っています。使わなければ生きていけないので…。